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海外感染症流行情報 2018年2月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)

・世界の麻疹の流行状況

2017年はヨーロッパで麻疹の患者が2万人以上発生しました(WHOヨーロッパ地域 2018-2-19)。これは2016年の4倍以上の数です。このうち、ルーマニアとイタリアでそれぞれ5,000人の患者が発生しています。アメリカ大陸では麻疹の根絶宣言がされていますが、2017年はベネズエラで1,000人近い患者が発生しました(米州保健機関 2018-2-6)。患者数の多いのはボリバール州で、観光客に人気の高いギアナ高地のある州です。米国でも昨年は120人の麻疹患者が確認されました。アジアでは中国で2017年に6,000人近い患者が確認されており、他にもマレーシアやフィリピンからの報告数が多くなっています(WHO西太平洋地域 2018-1月)。なお、日本では2017年の発生数が189人でした(国立感染症研究所 2018-1-5)。 麻疹は西ヨーロッパの先進国や根絶宣言が出されている南米諸国でも多くの患者が報告されています。このため、日本から海外渡航する際には、いずれの国でも感染リスクがあると考えるべきです。日本では20歳代後半から30歳代の年代で、麻疹への抵抗力が弱く、この年齢層が海外に渡航する際には、麻疹ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。

・中国での鳥インフルエンザの流行

中国では2013年から鳥インフルエンザH7N9型の流行が冬の時期にみられていましたが、今期(2017年11月以降)は患者数が2例と大変少なくなっています(外務省・海外安全HP 2018-2-23)。その一方、2017年12月、江蘇省でH7N4型ウイルスに感染した患者が初めて確認されました(WHO 2018-2-22)。この患者は68歳の女性で、肺炎をおこしましたが回復しています。発病前にニワトリとの接触があったことが明らかになっています。

・パキスタンで多剤耐性の腸チフスが流行

パキスタンのカラチなどで、多剤耐性の腸チフス菌に感染した患者が増加しています(米国微生物学会誌 mBio 2018-2-20)。腸チフス治療の第1選択薬である第3世代のセフエム系抗菌薬にも耐性がみられています。英国でもパキスタンから帰国した旅行者に同様の菌が検出されました。パキスタンやインドなど南アジア諸国は腸チフスの感染リスクが高い地域であり、同地域への渡航者には腸チフスワクチンの接種が今まで以上に推奨されます。

・南アフリカでリステリア症の集団感染が発生

2017年12月に南アフリカ共和国のGauteng州(ヨハネスブルのある地域)などでリステリア症の集団感染が発生しました(米国CDC 2018-2-12, 英国FitForTravel12018-2-21)。患者数は872人(164人死亡)にのぼり、このうち70%以上は新生児でした。リステリア症は乳製品などの経口摂取でおこる感染症で、妊婦や高齢者などが感染すると髄膜炎や敗血症など重篤な症状をおこします。感染した妊婦から生まれた新生児に症状が出ることもあります。感染源となる乳製品を加熱処理することで、予防することができます。

・北米でのインフルエンザ流行

北米では今シーズン、季節性インフルエンザが大流行をおこしています(WHO 2018-2-19)。カナダでは過去5年間の流行を上回る規模になっており、B型ウイルスが多く検出されています。米国の流行はピークに達していますが、過去7年間で最も入院数の多い流行になりました。ウイルスとしてはA(H3N2)型が多く検出されています。

・ブラジルでの黄熱流行

ブラジル南部で昨年から発生している黄熱の流行は、さらに拡大しています。2017年7月から2018年2月中旬までの累計患者数は409人で、今年1月以降の増加が顕著です(米州保健機関 2018-2-16)。患者発生の多い地域は南部のサンパウロ州、ミナス・ジェイライス州、リオデジャネイロ州で、サンパウロやリオデジャネイロなど大都市の近郊でも黄熱患者が発生している模様です。この流行によりヨーロッパ人旅行者2名が発病しました。ブラジル南部ではサルの集団感染例も増加しており、今後、黄熱の流行が南方のパラグアイやアルゼンチンに拡大する可能性もあります。ブラジルに渡航する際には、滞在地が都市部であっても黄熱ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。

・南米でマラリアの流行が再燃

南米ではここ数年、マラリア患者数が増加傾向にあります(米州保健機関 2018-1-30)。ブラジルではアマゾナス州やパラ州などを中心に、2016年は11万人、2017年は17万人の患者が発生しました。ベネズエラでも、2016年は24万人、2017年は31万人の患者数になっています。ブラジルでは、バイア州の州都・サルバドール近郊でもマラリア患者の発生がみられており、米国CDCは滞在者に予防内服を推奨しています(米国CDC 2018-1-31)。この地域では従来、マラリアが流行していませんでした。