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海外感染症流行情報 2016年 5月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)

・中国での鳥インフルエンザH7N9型流行状況

 中国の沿岸部では2013年から冬季に鳥インフルエンザH7N9型の流行が毎年みられています。今季(11月~4月)は97人の患者が確認され、うち38人が死亡しました(外務省海外安全センター 2016-5-12)。3月~4月の患者数は28人で(WHO 2016-5-3, 17)、発生地域は江蘇省(10人)が多くなっています。ほとんどの患者は発症前に家禽との接触歴がありました。流行地域では生きた家禽が販売されている市場などに立ち入らないように注意しましょう。

・モンゴルで麻疹患者が増加

 今年になりモンゴルで麻疹の患者数が増加しています。4月までに2,000人以上の患者が確認されており、とくに首都ウランバートルでの発生数が多くなっています(WHO西太平洋事務局 2016-4)。麻疹は空気感染する病気で、日本では20歳代後半から40歳代前半の年代で、抵抗力の低いことが明らかになっています。この年齢層が流行地域に滞在する際には、麻疹ワクチンの追加接種を受けておくことを推奨します。

・フィリピンでデング熱ワクチンの接種が始まる

フィリピンでは昨年末に、サノフィ社製のデング熱ワクチン(Dengvaxia)が認可されており、4月下旬までに小児を中心に約20万人が接種を受けました(ProMED 2016-5-9)。接種後は局所反応などの副反応が一部にみられていますが、大きな副反応の発生はないようです。このワクチンは生ワクチンで、3回(0~6か月~12か月)の接種が必要です。詳細については下記のWHOのホームページをご参照ください。 http://www.who.int/immunization/research/development/dengue_q_and_a/en/

・シンガポールで手足口病の患者が増加

シンガポールで2月から手足口病が流行しています。4月までの患者数は小児を中心に12,000人で、この数は2013年以降で最多となっています(WHO西太平洋事務局 2016-5-3, ProMED 2016-5-5)。本症はエンテロウイルスによる病気で、飛沫感染や接触感染で拡大します。発熱や発疹をおこすとともに、脳炎や心筋炎など重篤な症状を併発することがあります。シンガポールでは気温の上昇する6月~7月に患者数がピークになるため、手洗いの励行などの十分な予防対策が必要です。

・アフリカ南部で黄熱の流行が拡大

 アフリカ南部のアンゴラでは、昨年12月から首都のルアンダを中心に黄熱の流行が発生しています。現地ではWHOによるワクチン接種が展開されていますが、患者数(疑いも含む)は5月中旬までに2420人にのぼり、うち298人が死亡しました(WHO 2016-5-20)。アンゴラで感染した患者が国外で発病する事例もみられており、コンゴ民主共和国で42人、ケニアで2人、中国で11人の患者が確認されています。コンゴでは輸入例を起点とする国内流行も発生しています。 WHOは5月19日に緊急委員会を開催し、「今回の黄熱流行は国際的な公衆衛上の緊急事態にあたらない」との結論を出していますが、今後も流行の推移を観察する必要があります(WHO 2016-5-19)。なお、アンゴラやコンゴに入国する際には、黄熱ワクチンの接種証明書の提出が必須となっています。また、周辺諸国でも入国時に証明書の提出を求めることがあるので、入国を予定する人は、事前に在日大使館や検疫所などに問い合わせてください。

・ジカウイルス感染症の流行状況

 中南米などで発生しているジカウイルス感染症の流行は4月も拡大しており、流行国(地域を含む)は66か所となりました(WHO 2016-4-21)。ただし、3月末の時点での流行国は61か所だったので、拡大の速度は落ちている模様です。4月中旬にはベトナムのホーチミンなどで国内感染例が発生しました(WHO 2016-4-12)。 なお、米国CDCの調査によれば、今年の2~3月に流行国に滞在した旅行者4534人(このうち3353人は妊婦)の血液検査を行ったところ、4%の旅行者にジカウイルスの感染が確認されました(米国CDC-MMWR 2016-4-13)。また、米国CDCはジカウイルスの感染が胎児の脳に異常をおこすことを正式に認めました(米国CDC 2016-4-13)。このように、流行国でジカウイルスに感染する頻度は比較的高く、また、妊婦が感染すると胎児の脳に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠している女性は流行国に滞在するのを極力控えるようにしてください。

・ブラジルの感染症流行情報

 今年は8月からリオデジャネイロでオリンピックとパラリンピックが開催されるため、多くの日本人がブラジルを訪問します。現地では蚊に媒介されるデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症が流行しており、滞在中は蚊に刺されないように心がけてください。また、サンパウロ州では黄熱の患者も発生しており(ProMED 2016-5-7)、内陸部に立ち入る場合は黄熱ワクチンの接種を推奨します。なお、ブラジルは南半球のため、これからインフルエンザの流行時期となりますが、まだ本格的な流行は発生していない模様です(WHO 2016-5-16)。