海外感染症流行情報 2023年12月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)

(1)全世界:新型コロナ、インフルエンザの流行状況

欧米諸国では冬の到来とともに新型コロナの流行が再燃しています。12月になり米国、ヨーロッパともに、入院患者数や救急受診者数などの指標が増加傾向にあります(米国CDC 23-12-22、ヨーロッパCDC 23-12-22)。シンガポールでも12月に患者数が増加しており、病床がひっ迫しつつあります(シンガポール保健省 23-12-20)。流行している変異株はBA.2.86系統のJN.1が世界的に増えており、WHOによれば検出ウイルスに占める割合が12月初旬は27.1%まで増加しました(WHO 23-12-18)。JN.1の感染力や病原性は今までの変異株と同様のようですが、免疫逃避をしやすいと見られています。日本では12月になり定点報告数が全国的に増加しており、JN.1の比率も1割以上になりました(厚生労働省 23-12-22)。
一方、インフルエンザの流行も12月になり欧米諸国や東アジア(中国、韓国、日本など)で拡大しており、北米ではA(H1N1)型が多く、東アジアではA(H3N2)型、A(H1N1)型の両方が増えています。日本では12月15日に定点報告数が全国で30人を超え、警報レベルの流行になりました(厚生労働省 23-12-15)。

(2)アジア:アジアでのデング熱流行

東南アジアでは12月になりデング熱患者の発生数が減っています(WHO西太平洋 23-12-7)。今年はフィリピンで16万人、ベトナムで15万人の患者が確認され、昨年より少ない数でした。一方、タイでは13万人で、昨年より4倍近く増えました。南アジアでは12月も引き続きデング熱患者の発生が続いており、バングラデッシュでは30万人と昨年の5倍の患者数になっています(WHO 23-12-21)。

(3)アジア:カンボジアで鳥インフルエンザ患者発生

カンボジア南部のカンポットでA(H5N1)型の鳥インフルエンザの患者が2名発生しました(WHO 23-11-29)。20歳代の女性と5歳の女児でいずれも重症です。どちらの患者も発症前に家禽に接触していました。今年になりカンボジアでは、A(H5N1)型の患者が今回の2人を含め6人発生しています。

(4)アジア:バングラデッシュでのニパウイルス流行

今年、バングラデッシュではニパウイルスの患者がダッカ周辺などで14人発生し、このうち10人が死亡しました(ProMED 23-12-13)。同国では2001年からニパウイルスの患者が339人確認され、うち240人が死亡しています。このウイルスは大型のコウモリが保有しており、コウモリが接触した果物を食べるなどして感染し、脳炎を起こします。最近の調査では、患者から家族や医療従事者に直接感染が広がる可能性もあるとのことです。

(5)ヨーロッパ:各地でマイコプラズマ肺炎が流行

今年の夏以降、デンマーク、オランダ、アイルランドでマイコプラズマ肺炎の患者が増加しています(ProMED 23-11-30)。マイコプラズマは細菌の一種で、上気道炎や肺炎を起こします。中国でも今年の夏から小児を中心に流行が拡大しています。新型コロナが流行して以降、呼吸器感染症の予防対策強化により、世界的にマイコプラズマの流行は起きていませんでしたが、対策緩和で流行が再燃している模様です。日本でも20年以降、流行がほとんど見られていないため、今後、流行の再燃が懸念されています。

(6)中南米:各地でデング熱の流行拡大

今年は中南米各地でデング熱の流行が拡大しており、12月中旬までに累積患者数が410万人に達しました(WHO 23-12-21)。過去5年平均の患者数と比較すると、2倍の数になります。ブラジルでは患者数が290万人と最も多く、ペルー、メキシコ、コロンビアでも増えています。また、今年はアルゼンチンで11月末までに12万人のデング熱患者が発生しており、過去にない規模の流行となりました(Fit For Travel 23-12-19)。


(訂正)前号の「新型コロナ流行情報」で、「WHOはBA.2.86のリスクを監視下の変異株(VOU)から注目すべき変異株(VOI)に一段階格上げしました。」と記載しましたが、「監視下の変異株」は「VUM」が正しい表記でした。お詫びするとともに訂正いたします。