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海外感染症流行情報 2021年9月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)

・全世界:新型コロナウイルスの流行状況

新型コロナウイルスの感染者数は9月に入り世界全体で減少傾向にあります(WHO Corona virus disease 2021-9-21)。これは、ワクチン接種が拡大していることや、各国の流行対策の効果などが考えられます。しかし、北半球の温帯地域が冬を迎える11月ごろからは、流行の再燃も危惧されています。ワクチン接種の効果は約半年と考えられており、欧米諸国を中心に追加接種が始まりつつあります。なお、現在はデルタ株が世界的に流行していますが、新たな変異株が拡大する兆候は今のところ見られていません。
なお、日本では第5波が9月末までに収束し、緊急事態宣言が解除される見込みです。この後、海外渡航に関する制限も緩和されることが予想されており、政府の発表を注視していく必要があります。

・全世界:季節性インフルエンザの流行

南半球の温帯地域の冬は9月で終了しましたが、今年も季節性インフルエンザの流行がみられませんでした(WHO Influenza 2021-9-13)。一方、アフリカの熱帯地域やメキシコ、インドなどではインフルエンザの患者が少数ながら発生しています。北半球の温帯地域で今年の冬に流行が発生するか否かは不明ですが、新型コロナの流行と重なることを避けるため、冬になる前にインフルエンザワクチンの接種を受けておくことを推奨します。

・アジア:中国でH5N6型鳥インフルエンザ患者が増加

中国では今年になりH5N6型の鳥インフルエンザ患者が立て続けに発生しており、患者数は9月末までに20人にのぼっています(Outbreak News Today 2021-9-8, 17, 22)。ここ1か月間では江西省、湖南省、広東省で患者が確認されました。H5N6型のウイルスは2014年から中国でヒトの感染が確認されており、患者の多くが重症化しています。これまでに44人の患者が発生し、その半数近くが今年になってからの発生です。患者の大多数は市場などで家禽類との接触歴があり、ヒトからヒトへの感染はまだ起きていません。

・アジア:インドでニパウイルスの患者が発生

インド南部のケララ州で8月末にニパウイルスの患者が1名発生しました(WHO outbreak news 2021-9-24)。この患者は12歳の男性で、その後、死亡しました。ニパウイルスはコウモリに媒介されるウイルスで、患者は脳炎などをおこします。1998年にマレーシアで初めて流行が確認され、インドでも流行していることが明らかになりました。感染したコウモリとの接触や、コウモリの体液で汚染された果物などを食べて感染がおこります。

・アフリカ:マダガスカルでペスト患者が発生

マダガスカルの首都近郊で8月からペスト患者が発生し、9月16日までに患者数は38人にのぼっています(ECDC Communicable disease threat 2021-9-10、Outbreak News Today 2021-9-23)。マダガスカルでは毎年、山岳地帯を中心にペストの流行が発生していますが、今年は都市近郊でも患者が発生している模様です。同国では2017年にも首都近郊で500人以上のペスト患者が発生しており、今後も十分な監視が必要です。  

・北米:米国・ニューヨークでレプトスピラ症が増加

ニューヨーク市では今年になりレプトスピラ症の患者が14人確認されました(Outbreak News Today 2021-9-24)。このうち13人は市内で感染したと推定されています。2006~2020年までの市内での感染者数は44人で、今年はとくに多くなっています。レプトスピラ症は高熱とともに肝臓や腎臓の障害をおこす感染症です。ネズミの尿に原因となる細菌が排泄され、これに汚染された水などに接触して感染します。発展途上国で発生することが多い病気ですが、今回のニューヨークでのケースは、ホームレスなど衛生状態が悪い環境で生活する人に多発したようです。